道垣内弘人『プレップ 法学を学ぶ前に』(2010)
・本稿は法令(法律や条例)等に関するものですが、その解釈はこのブログ筆者である私の独自のものであったり、誤りが含まれている可能性があります。
・法令等は日々更新されるものです。本稿に記載される法令名や条文等が最新のものとは限りませんし、最新情報を漏れなく補っていくことはしません。
・以上はこのブログに関する免責事項ですが、このブログの元となる研修や書籍等に対して上記の責任を帰するものでもありません。しかし、本稿を参考にされる場合、ご自身で書籍や法令等を一度ご確認いただくことを推奨いたします。
- 作者: 道垣内弘人
- 出版社/メーカー: 弘文堂
- 発売日: 2010/04
- メディア: 単行本
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法学を学ぶ“前に”ということで、法学の議論に最初の段階でつまずいてしまう理由は次の2つであると、筆者は言っています。
- 法学における議論の“性格”が理解できない。
- 前提知識が欠けている。
本書では、法学における議論の性格や前提知識について、次のように展開していきます。
〈法規の構造〉
「ある要件が充足されれば、ある効果が発生する」というのが、法的なルールの基本形態であり、条文の基本的な書き方だといいます。次の条文は、その例。
ex. 刑法235条
(窃盗)
第235条 他人の財物を窃取した者は(要件)、窃盗の罪とし、十年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する(効果)。
例外としては、効果が他の条文に規定されているものや、「効果」がないと解されている条文もあるそうです。
〈法解釈の必要性〉
条文中の言葉が具体的にどのようなことを意味するのかは、すべて「法解釈」に委ねられているのだといいます。それは、条文というのが様々な具体的な事案に適用されることを前提に、抽象的な言葉でできあがっているものだからだそうです。
この抽象性は「共通性のある紛争は、一貫した基準で裁定されなければ不公平であり、バランスが欠けることは許されない」という認識のもとに成り立っており、実社会に存在する様々な紛争のうち一定のものに共通要素を見いだしたものが法律の条文のため、具体的な紛争を抽象化したかたちであるのは必然的であり、解釈の必要性(≒抽象性)が複数解釈の可能性や解釈の余地を生むのも必然だといいます。
〈法解釈の諸方法〉
解釈のスタートラインは、文理解釈(文法的意味の確定)であり、法令用語などを含め読み解かなければなりません。
そして、その次のステップが、目的論的解釈(法の“目的”に従って解釈すること)であり、ここで「あるべき解釈論」を決めることになります。
法の“目的”の定め方は、
①立法者意思説
→立法者が立法の際に有していた目的が法の目的
②法律意思説
→法は立法者を離れた客観的な存在であり、現代の社会においてその法が有する目的として客観的に認識されるところが法の目的
の大きく2つという見解があり、それを探究するために、
①体系的解釈
→他の法との体系的整合性に基づく
②歴史的解釈
→制度や法規の歴史的な沿革に基づく
③比較法的解釈
→外国法との比較に基づく
④利益考量
→保護される価値・利益に基づく
が行われます。
〈判例の重要性〉
また、抽象的な制定法の条文が実際の事件に当てはめられることによって、その具体的な意味内容がだんだんと定まってくるのだといいます。
裁判所によって示された解釈は、きわめて強い力を有し、その後、裁判所が解釈を下すときに判例として尊重されます。とりわけ最高裁判所によって示された法解釈は、裁判の世界においては、制定法の条文そのものと同じくらいの価値があるのだそうです。
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本書により得られた知見は、法は解釈してなんぼということだと思います。1つの条文をとっても、それに何通りかの解釈があるというのはおかしいことではないんですね。したがって、法を具体的事案に適用するにあたっては、その都度事案をもとに、条文に向き合わなければならないということになるでしょう。
〈おまけ〉
制定法を参照するにあたって、便利なサイト
法令データ提供システム|電子政府の総合窓口e-Gov イーガブ (2015年9月19日アクセス)