自治体職員の勉強ブログ

日々少しずつでも成長

森池豊武・折口晴夫・丸尾牧『号泣議員と議会改革――市民のための議会改革処方箋』(2015)

・本稿は法令(法律や条例)等に関するものですが、その解釈はこのブログ(『自治体職員の勉強ブログ』)筆者である私の独自のものであったり、誤りが含まれている可能性があります。

・法令等は日々更新されるものです。本稿に記載される法令名や条文等が最新のものとは限りませんし、最新情報を漏れなく補っていくことはしません。

・以上はこのブログに関する免責事項ですが、このブログの元となる研修や書籍等に対して上記の責任を帰するものでもありません。しかし、本稿を参考にされる場合、ご自身で書籍や法令等を一度ご確認いただくことを推奨いたします。

・また、このブログに記載されている内容は、このブログの筆者が所属する地方公共団体及び関連するその他の団体の意見を何ら代表するものではありません。

号泣議員と議会改革: 市民のための議会改革処方箋

号泣議員と議会改革: 市民のための議会改革処方箋

 

日本全国を驚かせた野々村竜太郎元兵庫県議会議員(以下、引用等以外では「野々村議員」で統一)のいわゆる「号泣会見」が行われたのは2014年の7月1日。
野々村議員が感情的になったのは、約3時間の記者会見の内のほんの数分に過ぎないというが、この会見をきっかけに、それまで一般の人にとって馴染みの薄かったであろう「政務活動費」の存在は広く認知され、また、おそらく人々の関心の外にあったであろう地方議会に対して、良くも悪くも世間の目が向けられました。

政務活動費とは、地方自治体の第100条で「その議会の議員の調査研究その他の活動に資するため必要な経費の一部」として「その議会における会派又は議員に対し」交付が認められている。そして、議会の長である議長は「その使途の透明性の確保に努めるもの」とされます。
当時問題となっていたのは、野々村議員が2013年度に城崎などへ計195回もの日帰り出張をしたとして、政務活動費約301万円を支出していたことであり、交通費に係る領収書全てが自作の「支払証明書」で代替されていたこと、訪問目的や活動内容が明きらかでなかったことなどから、これらの通常不可能かつ不可解な出張による支出は、虚偽報告によると考えられたのです。

その後の2014年7月7日、野々村議員は議長から辞職勧告を受け同11日に辞職。
同15日には兵庫県内のオンブズ3団体が、この事態に対し記者会見を行い、「野々村竜太郎県議の『号泣事件』に対する私たちの見解」を公表します。

omb-nishinmy.jugem.jp

 (2016年11月20日アクセス)

市民オンブズ西宮代表世話人で本書の著者である折口氏は、

この見解の公表によって私たちが伝えたかったことは、号泣の異常さに目を奪われることなく制度的不備の是正を目指すことの重要性である。

(本書p.45より抜粋)

としており、



いたって冷静で真っ当な主張であることに驚かされます。



野々村議員は言わば兵庫県議会にとっては「トカゲの尻尾」(本書p.104)だったのです。著者らは野々村議員個人に対してというよりも、兵庫県議会という組織の問題点に目を向けており、

議会が取った行動は、➀野々村氏に辞職勧告を行い、➁説明責任を果たせないなら全額返還することを求め、③虚偽公文書作成等で刑事告発をおこなうなど、徹底して野々村氏個人の責任を追及し、自分たちに火の粉がかからないように、徹底して幕引きを図る狙いが明らか

(本書p.97より抜粋)

であり、

 

老獪な県議会のボスたちは野々村議員の3年分の支出に焦点を絞り、県民の怒りを野々村議員だけに向けようとしていた。

(本書p.39より抜粋)

としています。

その後は、マスコミ報道やオンブズマンの働きかけにより、領収書偽造や大量切手購入、妻同伴視察、絵画購入など、兵庫県議会の政務活動費に係る様々な問題が明かになり、兵庫県議会での政務活動費のあり方についての見直しが進められていきます。
また、ご承知の通り「政務活動費問題」は全国に飛び火し、議員による政務活動費の杜撰な取り扱いが全国で次々と発覚します。



では、このような事態はなぜ起きるのでしょうか?



本書では、個人的・組織的問題の他に「おまかせ民主主義」(本書p.34)の問題点を挙げています
野々村議員を選出した兵庫県西宮市は「文教住宅都市」(本書p.50)であるが、「転出入が多く、自治体行政への無関心からか投票率は30%台で低迷している」(本書p.50)。
要は、市民(本記事では、代表的な意味で「市民」と表現する)がしっかりと議員を選び、監視しなければならないということ。
また、組織的な問題ではありますが、「全国で同じような問題が発生する」(本書p.193)ことについても、

その背景には、行政と議会の馴れ合いがある。
行政側は議会のチェックを受け予算を通してもらう必要があることから、議会のお金の使い方については、あまり問題にしない。

(本書p.193より抜粋)

と指摘しています。

私自信も、このような「馴れ合い」に陥ってしまわないように、日々意識をしておきたいと思います。


**************************


一連の政務活動費問題とはやや話が逸れますが、本書中にいくつか興味深い記述があったので記しておきます(一部、「政務調査費」という記述がありますが、これは旧制度上の「政務活動費」の旧称です)。
 

しかし、地方議会においても現職優位であり、とりわけ政務調査費を使って大量の議会報告を出すことが可能であり、実際に多くの現職議員がそうやって再選を果たしている。ありていに言えば、税金で選挙の事前運動をやっているのだ。議会報告作成、印刷、郵送、新聞折込み、戸別配布(全戸配布)、これらすべてに政務調査費を投入することができる。新人候補が街頭に立ち、市民に訴えることでどこまで対抗できるかを考えたとき、現職が行使できる“議員特権”が絶大な力を持っている。

(本書p.34より抜粋)

なるほど。政務活動費自体は「選挙活動」には充てられないため、「議会報告」についても「政務活動」にあたる範囲に限って政務活動費から支出されるはずです(ただし、政務活動費からの支出例は各自治体議会によって異なる)。しかし、部分的にであれ政務活動費の補助によって「議会報告」が出せるのであれば、政務活動費は「選挙活動」においても有利に働くんですね。

また、

議会の多数派は報酬や政務活動費の削減には反対し、定数削減で議会批判をかわそうとしている。(中略)定数削減は多様な意見を議会に取り入れる道を閉ざし、既得権(議員特権)にあぐらをかく現職議員をのさばらせる。

(本書p.35より抜粋)

とのこと。議会とは市民が選出した議員により構成されているはずですが、議会のロジックというものに関しては、注意深く目を凝らしておいた方が良いということなのかも知れません。