自治体職員の勉強ブログ

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松島完『通年議会の〈導入〉と〈廃止〉ーー長崎県議会による全国初の取り組み』(2014)

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〈導入〉と〈廃止〉というタイトルに惹かれ、「通年議会」のメリット・デメリット、その実経験に基づいた両方向的な考察を期待して本書を手に取りました。
その点、著者は完全なる「通年議会」導入賛成派だったため、私が(勝手に)抱いていた期待は裏切られてしまいましたが笑

そもそも「通年議会」なんて聞いたことさえないかも知れません。
まずは、「通年議会」とは何かについて説明していきたいと思います。

一般的に、地方議会は年4回の定例会を行い、その定例会の期間を会期としています。一方、通年議会では、会期を1年間とするため、定例会の概念がなくなります。

地方自治法では、次のように通年議会を可能にしています。

地方自治法第102条の2
    普通地方公共団体の議会は、前条の規定にかかわらず、条例で定めるところにより、定例会及び臨時会とせず、毎年、条例で定める日から翌年の当該日の前日までを会期とすることができる。

会期を通年にすることにより考えられるのは、たとえば、従来の定例会で会期ではなかった時期にスムーズに議会での審議を行うことができることです。
また、専決処分(本来、議会の議決が必要な事項について、議会の議決をしないで首長が決めること)事項の一部に議会の議決が及ぶようにもなります。

(皆さんのお住みの地域の議会が定例会方式もしくは通年議会方式のどちらをとっているのか、お調べになると面白いかもしれません。)

少々長くなりますが、著者は通年議会について次のように言っています。
通年議会とは、議会をいつでも開けるようにして、県民の方々の声を即座に、そして多く届けられるようにし、県政に反映させるというものである。現在は、議会側に議会を開く主導権がなく、首長(知事)側に主導権がある。行政の本質は権力であり、この権力に対して、議会がしっかりと監視をしないといけない。また政策提言をし、より民意を反映させなければならない。議会が本来の役割を果たすためにも、議会側が議会を開く主導権を持つべきであり、通年議会によってそれが可能になるのである。
(本書p.28より抜粋)

ちなみに著者は、現役の長崎県議会議員(2015年6月現在)で、長崎県議会では2012年3月より通年議会の導入を可決し、その2年後の2014年2月に通年議会の廃止を決定しています。そして、著者は通年議会廃止の最大の要因を、通年議会反対派である政治団体(ここでは政治団体Aとしておきます)が議会の最大会派となったためだとしています。

本書で挙げられていた、通年議会のメリット・デメリットは次の通り。

通年議会のメリット〉
  • 議会活動のパワーアップ(議長が議会の招集権をもつ)
  • 議会活動のスピードアップ(議会をいつでも開ける)
  • 議会と執行部との間に緊張感が生まれる(議会による監視機能強化)。
  • 議決を経ない専決処分が減る(民意を反映できる)。
〈通年議会のデメリット〉
→著者は賛成派のため、政治団体Aの言い分となります。
  • 議員や職員の拘束時間が長い。
  • 専決処分が無くなれば、自然災害等に対応すべき事態が起きた時、議会対応を優先するあまり現場対応が後回しになる。
著者の議員としての改革への熱意は素晴らしいものですし、今回の廃止は通年議会の是非を十分検証したものではなかったのかも知れませんが、読者としては、もう少しフラットな視点で、通年議会の是非を検討できる内容であれば良かったと思います。